リングフライトと言うマジック

　リングフライトと言うマジックがある。

　現象を簡単に説明すると、
１．お客さんから指輪（リング）をお借りする。（必ずしも借りる必要はないが）
２．そのリングが演者（マジシャン）手元から一瞬で消失する（演出は様々）。
３．マジシャンは自身のポケット（おおむね、ズボンのお尻側）からキーケースを取り出す。
４．そのキーケースの鍵（Key：キー）を接続する部分に、消失したリングが繋がって（固定された状態）で出てくる。
　もちろん、キーケースはそれまで一度も観客の目には触れておらず、最初からポケットの中にあり、リングをつなげることは不可能（に見える）、と言うマジックである。

　かなり不思議で不可能設定度は高い。そのため、愛用しているマジシャンは多い。
　（阿呆なマジシャンほど借りた道具でマジックをしたがる。また不可能設定が高いほど良いマジックだと勘違いしている阿呆なマジシャンが多いからだと思うが。なんにせよ、マジシャンは阿呆が多いと言う結論・・・は、置いといて。）

　このマジックはそのキーケースにタネ（仕掛け）がある。簡単に説明すると、キーケースのキーを繋げる部分がリール（巻き戻る）になっている。見えないように指輪を繋いで、キーケースまで飛ばす（巻き戻す）と言うのが肝となる部分（タネ）である。
　説明を少し変えると、キー・リール（Key Reel）の巻戻った先がキーケースになっているだけ。

　単純に考えて、指輪（リング）をキーケースにつなぐ時点およびそれが巻き戻る時において指輪（リング）に傷がつく可能性があるし、傷がついても不思議ではない構造である。

　まともな神経を持った人間なら、指輪の選別を慎重に行うであろう。マジシャンという時点で、まともな神経を持った人は稀有なので、このマジックが流行っている理由もわからないでもない。

　私は、基本的には、お札などの代替品で返却できるもの以外は借りない。もし、演目のリクエストなどがあり、人から指輪を借りて行うマジック行う場合でも、数千円程度（問題なく弁償できる額）のファッション的な指輪であることを確認する。さらに金額の問題とは別に思い出の指輪とかでないことも確認するようにしている。
　100円ショップのオモチャですらその人にとっては、掛け替えのない品かもしれないことだってある。ただし、この様な気づかいができるマジシャンは皆無。換言すると、この様な気づかいができるまともな精神を持っていれば、マジシャンなんて職業をしていない。（話は逸れるけれど、そのくせ「演技論」を語りたがる自称プロマジシャンは多い。）

　さて、本題。

　もう何年も前の話しになるので今更だけど、某マジックバーでの出来事を書き出してみる。

　マジックバーのスタイルとして、何組かのお客さんに同時にまとめてショーを見せることは普通にある。
　そのようなスタイルのマジックバーで、マジシャンが「指輪を貸して欲しい。」と言い出した。同席に女性も多かったのだが、若い子が多く、ファッション的にも指輪をしている人がいてなくて、「左手の薬指」に指輪をしていた私が指輪を貸すことになった。

　この時点でまともな人間なら、無難なマジックをして終了するところである。ところが、このバーマジシャンもご多分に漏れずバカだった。当然に、臨機応変に対応するような機転を効かすことなぞできるわけもなく、「このマジックをする。」と決めたらそれしかできないバカだった。
　人様（私）が「左手の薬指」から外した指輪でリング・フライトをおっぱじめた。
　ただ、彼をフォローするとすれば、バーマジシャンは素養も教養もないことが多いので、左手の薬指に嵌っている指輪が婚約指輪と言うことを知らない可能性も否定はできない可能性も高いのであまり強く責めるのは酷かも知れない。

　もちろん、非手品人からしたら「貸した指輪がキーケースに繋がってでてくるだけ。」のマジックである。

　しかし、こちらからすると、傷がついたりする可能性のあるマジックをよくもやってくれたものだ。やっぱりマジシャンはかなり頭が悪いか、イかれているかのどちらか、むしろ頭が悪くてイカれていると言う2面を兼ね揃えているんだろうなぁっと言うことを再確認させてもらえた出来事だった。
　貸した指輪自体はずっと嵌めっぱなししている指輪なので、もともといたるところに小さな傷があり、新たにひとつくらい小さな傷がついてもわからない。ただ、もしも大きな傷がついたり、嵌ってあるダイヤモンドが外れたりしたら、「テメーら雇われのバーマジシャンごときの収入からみたら、そのリングは安くは無いぞ。」って言いたい。実際、Tiffanyのリングで、価格もおそらくは平均的なバーマジシャンの月収の数ヶ月分はするやもしれない。それ以前に「左手の薬指」に嵌っている指輪が金で解決できるものでもないと言うことは、一般的な感覚を持っていたら理解できるはずである。
　再度の記載になってしまうが、マジシャンという時点で、まともな神経（一般的な感覚）を持った人は稀有なので、自分で書いておきながらもこの前提（一般的な感覚を持っていたら理解できる）は無意味であることは承知している。

　つまり、マジシャンにまともな神経や、一般的な感覚を期待している私が一番の馬鹿者であることがここに証明されてしまったと言うオチ。

　結論：不思議であれば、思考が停止する。それがマジシャン。（もともと思考する能力もないのかもしれないけれど）