読後感

旅する練習:乗代雄介

タイトル:旅する練習
初版:2021年1月12日
発行:株式会社講談社
著者:乗代雄介 [のりしろゆうすけ]

サッカー少女と小説家の叔父のロード・ノベル
中学入学を控えた少女・亜美と叔父の「私」は、コロナ禍の春休み、千葉の我孫子から茨城の鹿嶋まで川沿いを歩いて向かうことに。文学、サッカー、鳥や自然などさまざまなモチーフが旅に交錯していく。自分の大切なものを見直したくなる一冊。

VISA 情報誌 2021年4月号より

 ロード・ノベルって言う分類があることを初めて知る。

 タイトルは「旅する練習」とあるが、主人公のサッカー好き少女(亜美・小六)と小説家である(私)叔父との「練習の旅」の物語。

 旅の途中、途中で、叔父は風景を描写し、少女はリフティングやドリブルなどの練習をしながら(体力アップも?)の旅。2020年3月、近代において未曾有の新型コロナウイルスの蔓延の兆しが見え始めたころ。しかし、まだどこかで「まぁ数ヶ月もしたら治るだろう」と言う感覚が社会に残っていた頃を舞台にした小説。(実際には1年後の2021年3月時点ですら収束が見えていない)。

 かつて、亜美が出来心から拝借してしまった旅館の小説を返却しに行くと理由で、サッカー・鹿島アントラーズの本拠地へ向かうこととなる。拝借したことは親には言えない。そのため叔父である「私」へ連れて行ってもらう様にお願いする。鹿島へ向かう口実としてサッカー観戦の予定を計画した。しかし、件の新型コロナウイルスの流行で、サッカーの試合も中止になり計画は行き詰まる。

 そこで叔父の発案で、上記の通り「練習の旅」に出ることに。

 小説家(私)の描写が少し難しけど、旅の途中で出会う女子大生(みどり)との出会いと出来事も織り交ぜた「ほのぼの系」小説かと思い読み進めていた。

 「旅をしました。目的を成就(本を返しました)しました。少女が成長しました。はい、めでたしめでたし。」と言うことはないので、「この話をどう落とすのかな?」とも考えつつ読み進めると、あっという間に残りページ数も少なくなってきた。

<以下、ネタバレ含む>
 後半から段々と物憂げな感が漂いだし、そして最後の最後(殊更に最後の4ページ)で一気に雲行きが怪しくなる。
 その結末は亜美の死。
 それもわずか数行しか語られない淡白な表現。その数行を読んだ瞬間に、ここまで読んだ内容が一気にフラッシュバックするような感覚につつまれる。
 冷静に考えたら、受賞こそは逃したのものの芥川賞候補作。そんな単純な娯楽小説ではないのは当たり前か。
 ただ、文学的才能と知識および感性のない私からしたら、普通に楽しい結末の方が嬉しかった感はある。

 しかし、逆に考えたら自分では絶対にチョイスしない本。だからこそ、毎月送られてくるVISAの情報誌に紹介されている作品を無条件に読む様にしているので、これはこれで正解。


調べた言葉

ロード・ノベル:主人公が旅をし、その道中で起こるさまざまが出来事が綴られる物語
ゴラッソ:サッカー用語で「素晴らしいゴール」
快哉[かいさい]: こころよい、愉快だと思うこと。痛快。


旅する練習

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