読後感

正欲/浅井リョウ

タイトル:正欲
初版:2021年3月25日(4刷:2021年6月25日)
発行:株式会社新潮社
著者:浅井リョウ[あさいりょう]

 作家生活10周年を記念した書き下ろし長編小説。検事の啓喜、寝具店で働く夏月、食品メーカーに勤める佳道、大学生の八重子と大也。さまざまな登場人物の目線で、「多様性のある社会」での生活、人とのつながりがつづられていく。自分にとっての「正しさ」は、誰かの「暴力」にもなり得る。読後に世界が変わって見える、現代社会に一石を投じる力作。

VISA会報誌 6月号(No.556)より

 読後に世界が変わって見える・・・。ことはなかった。本当に変わって見えるようになったのであれば、「今までどれだけ平和な世界で純粋培養されてきたんだ?」と疑ってしまう。

 表題の「正欲」は「性欲」を捩った言葉であることは読めばわかる。ただ、性別的な性欲の少数者(作中ではLGBTQと表記)を取り上げたものではない。LGBTQもどんどん文字が追加されていくから、そのうち、LGBTQWSTAC・・・・って増えて、アルファベット24文字全てになるんじゃないか。あるいは、頭文字が同じで異なる意味の言葉を連結させて、LGBTQGTACそうなると、単語として覚えられないのじゃないかと心配している。たとえば、LGBTQGTAC・・・・とか。そうなると、単語として覚えられないのじゃないかと心配している。

<閑話休題>

 「多様性のある社会」と言う言葉を錦の御旗として振りかざし、異を唱えようものなら糾弾され排他される。そんな世の風潮に違和感を感じている人なら面白く読めると思う。
 作中の言葉を借りると「私は差別しませんとか、マイノリティに理解がありますとか(声高に叫ぶ人たちは)、理解がないと判断した人には謝罪しろとかしっかり学べとか時代遅れだとか老害だとか。」一方的に悪意(あるいは無知からくる悪)と決めつけ責める風潮がある。
 そういう風潮や絶対的正義を振りかざす人たちの意見をぶった斬りかねない、胸がスカッとする小説です。そして、一部の人(逆の人)には、むしろ最悪な読後感しか残らない作品です。
 
 人と人との繋がりを大切なもの(正しさ)として暴力的に押し付ける世間一般と、それを拒絶あるいは距離を置いてきた主人公たち(夏月、佳道、大也)との、正義のコントラスト。大也の八重子に発した「自分が想像できる多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」のセリフが印象的。
 大学生の八重子の世の中に理解されやす(=世間受けしやすい)苦悩と、夏月、佳道、大也の理解され難い苦悩のコントラスト。
 今の、表面だけの「反差別ウォッシュ」的な世の中に一石を投じたかったのかどうか・・・は不明。
 


 気になったのは、作中で(兄と妹の関係を)わざわざ「きょうだい」とひらがなで書いている。「兄弟[きょうだい]」には性別に関係なく同じ父母から生まれた子どもたちのことを言う意味もある。わざわざひらがなで書く、そう言う風潮にも違和感を感じる。障がい者の表示と同じ匂いがする。
 自分たちは理解者であり、受け入れる側。マイノリティに理解がありますアピール・・・。やっぱり好きになれない。


正欲

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