読後感

本を守ろうとする猫/夏川草介

タイトル:本を守ろうとする猫の話
初版:2022年9月11日(単行本:2017年2月)
発行:小学館
著者:夏川草介[なつかわそうすけ]

 タイトルから猫が主人公っぽかったので買ってみた。TVドラマ化もされた「神様のカルテ」の著者だが、TVを見ない私は、当然にそのドラマは見たことはないが、タイトルくらいは知っていた程度で、購入してからくだんの著者であることを知る。

 本作は、最初はファンタジーっぽい感じに爽やか少女も出てきたりして、TVドラマ化かアニメ化でも狙っているライトノベル?っと思って読み進めていた。そして直ぐにそうではないことを知る(感じる)。読みやすい文章ではあるのでライトノベルとしても楽しめるが。
 哲学とまでは言わないものの、著者の本に対する危機感と言うか、世の風潮に対する危機感に対して、本を通じて訴えている様だ。ただ単に著者の思いをつらつらと書いても響かないし、そんな美辞麗句的な理想を並べても誰の興味を惹けない。その中で小説の形態をとって読者の思いを存分に乗せた一冊になっていると思われる。

 確かに、表題やキャッチフレーズで煽るが中身は貧相な本も増えたし、一昔前と違って通勤中に本を読んでいる人も減った。書くまでも無く電車内では寝ているかスマホを見ている人が大半となっている。ただ、「一昔前と比べてどうこう言うこと」自体がナンセンスであるし、かく言う自分自身も通勤中はタブレット端末で学習していて、ここ1年半は電車では本を読んでいないので偉そうには言えない。
 著者の言いたいことは読書をする人が減ったことではなく、その本に対する姿勢も憂いている。そして本から学ぶことが少なくなった人の心にまで及んでいる。この辺りはネタバレにもなってしまうので、割愛する。

 本著の本質の部分ではないけれど、手品(マジック)のつながりとして思い出された人物があった。物語の登場人物で、やたらと読書量が多く読書量こそが正義と謳う評論家や、速読や本の中身を要約すること研究する研究者が出てくる。ただ、それらは単に自己顕示欲であり、本の本質を何も学べておらず上辺だけの知識を得て自分が偉くなったあるいは知識人になったと思い上がってしまった人物像として描かれている。この登場人物から、メンタリストと名乗る某マジシャンの顔が浮かんで仕方なかった(笑)。1話と2話はまさに彼への当て擦りではないか?と思えるほど適合している。


<ちょっとネタバレ>

 最後の迷宮(第四の迷宮)に出てきた初老の女性は「聖書」だよね?(と誰に問いかけているわけでもないけれど)

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